いやな予感

ある6月の日曜。

6月は毎日曜日が講習会に偶然重なってしまい、さすがにたまには1日ぼぉっとしていたいと思いつつ出かける。

会場に着くと、久々にペリオ(歯周疾患)の講習会なので行ってみると衛生士が5人に、ドクター1人の割合で、場違いだったかと一瞬あせる。

講師は自分より4~5歳年上の、物静かで紳士的な都内で開業されている先生で、どこかで見た事があるなと思ったら、息子の大学の理事をされていたことに気付く。

地味だが、非常にまじめな方で、開業時(35年前)自由診療オンリーで始めたら、1週間で3000円の収入しかなく、「家内が大変苦労していました」との事で、初期は大変だったと思われ身につまされる苦労話をされていた。

TBIは1時間程かけてじっくりやることで、1時間やったら保険中心ではとってもまわらない。

保険をやらないと言ったら入口のドアを蹴飛ばして出ていった患者もいたとのお話で、“信念”を貫く事は大変だという事を、ほぼ同世代としては身に染みて感じた。

会場は古いビルの8Fにあり、小さなエレベーターが2基備えられていて、昼休みなどはすぐにエレベーターがいっぱいになり、乗れない人間があふれてしまっている。

昼休みになり、外に食事に行こうとすると、我先にとエレベーターに皆乗り込み“デブ”のいやな瞬間がくる。何となくこうなるのではないかという予感がしていた。

“ブーー”重量オーバーのブザーがなると、思った通り、ベテランの衛生士とおぼしき女性が“アレッ、まだ6人しか乗っていないのに”次の瞬間私の方を見て“クスッ”ともうひとりのお仲間と眼を合わせて笑う。

歯科医院に勤めている女子は一種独特の雰囲気を持っている。自分を含めてドクターがだらしないせいか(ちゃんとしている方も多いが)、なんとなく“尊敬できない、笑っちゃう”雰囲気をドクターに対して持っていると感じているのは、私だけではないと思われる。

今、彼女たちが思っていることは、1.5人分(私)が乗ったおかげで、定員を満たさずにブザーが鳴った、犯人捜しをしたら“イタゾ、コイツダ”という事だろう。

これが仲間うちの歯科医師会の集まりだったら、デブがいっぱいいて、“俺と市島先生で3人分だ、バイバイ”とか言って、痩せているヤツを追い出しにかかるのだが、こういうケースではそうはいかず、“アレー”とか言って初老の紳士が降りてくれて、エレベーターは無事に動き出した。

昼休みが終わりそうになり食事から戻ると、また行きと同じようにエレベーター前が混雑している。いやな予感がしたが、えい!ままよ!と乗ってみると、またブザーが鳴り、行きと同じ展開になった。

今度は若い衛生士同士が、行きの時と同じように眼を合わせて笑い、視線の先を私に持ってくる。

若いドクターが仕方ないという感じでエレベーターから降りて、無事動き出した。

セミナーも無事に終わり帰宅となるが、さすがに1日に3度もあの冷やかな視線を浴びせられるのはたまらず、ダイエットを兼ねて階段で降りることとなる。

あの独特のスタッフの雰囲気は歯科独特なのか、それとも自分が考えすぎなのか。

そんな事を思いながら8Fから階段を駆け下りていった。