母親力

つい先日技工部の新井君と戸塚受付チーフの古庄さんの挙式が、みなとみらいで行われた。

手作りの心温まる式であった。

 

昔、よく先輩から言われた。

「イチジマ、女子従業員の面接では母親も連れてこさせた方がいいぞ。

それぐらい高卒ぐらいでは、母親の影響が如実に出るのだ。母親を見ればいっぺんに解る」と、その先輩はかなり田舎で開業して、やっていたかもしれないが、神奈川県では現実には無理な話だ。

今から30年程前、高卒で助手として採用した女子がいた。

入って一ヶ月もたたないうちに、

「先生、運転免許がとりたいです。免許がとれたら一生懸命に働きます」

という申し出があった。

他の従業員たちはブーブー言ったが、その言葉を信じて、運転免許をとりに行かせる事とした。

2ヶ月程で免許をとった時、衛生士のチーフが現れた。

「先生、新人のA子さんだけど、ひどすぎますよ。

免許をとった途端に別の就職先に行くと言っています。あんなに協力したのに私達許せません。罰として、今月の給料差し止めにして、私達にバックして下さい」

給料計算をしてくれていたおばさんも、皆の剣幕に負け、給料を出さずにいた。

しばらくすると、A子の母親から抗議の電話がかかってきた。

「先生、給料が振り込まれていないと、娘が怒っています。まさか出さないんじゃないでしょうね」

そうしたら、今度は事務のおばさんが怒り始めた。

「どうかと思いますよ。自分のやっている事は棚に上げて、あの娘にしてあの母親ありです。まさしくオニオヤですよ」

事務のおばさんに放っておけというと、母親が直に現れた。

まさしく鬼のような顔をして、自分の娘の弁護ばかりを言う。

私の開業以来、最悪の従業員だったと思う。

そんな事から、私はいつしか女子従業員の結婚式の場合、真っ先に母親の顔、しぐさを見るようになってしまった。

古庄さんは、当院の誇るべき感性あふれる女性だ。

そのお母さんもやはり、この子にしてこの母親ありと一目見て分かるような立派な「お母さん」というふうに実感した。

最後の、新井君の父上の、私の名前は新井貫二で、ゆっくり読むと「アライイカンジ」は、私の結婚式出席史上、最大最高のギャグだった。

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