茨城弁

NHKの朝ドラ「ひよっこ」は茨城県が主人公の出身地で、茨城弁が飛びかっている。
大学時代の寮は全国津々浦々から人が集まり、北海道弁、東北弁、北関東弁、関西弁、九州弁が入り交っていた。
中でもKの話す茨城弁はその迫力が飛びぬけていて「ひよっこ」に登場するような、なまっちょろいものではなかった。
ある時、札幌を代表する繁華街狸小路を歩いていると、向こうから何かを叫びながらKが近づいてきた。よく聞くと、
「おーい、イチジマハレジクーン」と呼んでいる。
私の名前は「晴司」セイジで、よく「ハルジ」とか「ハルシ」と誤って呼ばれていた。
「ハレジ君」はKだけが私をからかう時に使う呼び方で、もちろん「腫れ痔」とひっかけているものだと容易に想像できた。
しかし狸小路の時は、あまりに大きな声で騒ぐので周りを行き交う人は笑っていて、私はたまらずその場から逃げ出すようにして立ち去った。
翌日、予想通りにKが寮の私の部屋に現れた。
「ハレジクーン、お前きのう逃げたっぺよ」と唾を飛ばしながら言う。彼は水戸一高出身で、昔からよく言われる水戸の三ぽい「理屈っぽい・怒りっぽい・骨っぽい」のまんまの人物であった。
その後彼は歯槽膿漏の研究に没頭した後、郷里に帰って歯科医院を開業し、県の歯科医師会の幹部にまでのぼりつめた。
栃木県出身の、もう亡くなってしまったTとしばしば論争していて、Kは唾を飛ばしながら「……だっぺよ」と言う。Tは「……だべよ」と言い、私は横浜ことばの「……じゃん」を多用しながら議論をしたものだ。
「ひよっこ」を見ていると、あの茨城弁は地元の人が聞いたらさぞかしなまっちょろいと感じるだろうと思いながら、KやTと論争していた過ぎ去りし青春時代を懐古している。