理事長はつらいよ

NHKの軍師官兵衛を見ている。
最近の放送では、官兵衛と一枚岩だった秀吉が、だんだんと官兵衛を疎んじていく状況が写し出されている。
官兵衛がキリスト教に傾倒していったのも、離反していく理由だったのではないか。
そんな時、ふと遠い昔のほろ苦い出来事を思い出してしまった。

今から10年程前、平塚医院の従業員に熱心なキリスト教の信者がいて、休憩室に、キリスト教を宣伝するパンフレットみたいなものが、よく置かれていた。
ある時、ふとそのパンフレットを見てみると、
「主よ、この罪深き者をお許したまえ。信ずる者は救われる。」
とか書いてあって、見慣れた筆記体で、罪深い者の「者」が斜線で消えていて、Dr.Hが書いたと思われる筆記体で、「理事長」というふうに書き直してある。従って
「主よ、この罪深き理事長をお許したまえ。信ずる者は救われる。」
となっていた。
Hは自分の大学の後輩で、常日頃は反抗してくるタイプではなく、おとなしく温厚なタイプであったので、正直「クソッ」と思いながら、その意外さにびっくりした。
その紙を、何かのきっかけでぽっと出してやろうとして保管していたが、いつの間にか失くしてしまい、その事も忘れかけた頃、山北の診療所にHがやってきた。
彼はもともと矯正が専門なので、朝一番の矯正の患者がキャンセルになり、受付に
「H先生は何をやっているの…」と聞くと、技工室で技工をやっているとの事で、「うちの苦しい経営状態をおもんばかって、矯正の技工をやってくれているうい奴じゃ」と感心していたが、
いつまでも技工室から出てこないので、不審に思いのぞいてみると、
技工物どころか、なんと私の身体的特徴をとらえた人形を製作していた。
「何だこりゃ…」と言うと、笑いながらHはその人形を持ち、逃げるようにして立ち去った。
不吉な予感を感じたが、後日Hのホームグラウンドの戸塚に行ってみると、なんと診療所のあちこちに、私のフィギアが置いてあるではないか。
全部ピックアップして、5つも6つもある人形を、皆に笑われる中でゴミ箱に捨てていった。
その日Hは不在であったので、その時の受付のチーフのKさんに
「今度やったら承知しないぞ、と言っておけ」と言うのが精一杯であった。
受付のKさんに、何でHはこんなくだらない事をやるんだと聞いたら、
「先生(私)に、かまってもらいたいんじゃないですか」との事で、
経営者たるもの、精神医学や児童心理学の勉強も必要なのだと、つくづく思ったものだった。
何であんな事をやったのか、未だに不思議だが、その後は彼も大人になったのか、全然そのような行動はしなくなった。
今となっては懐かしく思われる思い出となった。