はるばるきたぜ函館(寮同窓会)

5月のある日、全国津々浦々から函館に、恵迪寮時代の仲間11人が集結した。

いずれも60歳は遥かに超えるおじさんたちである。

私は東京組4人で北海道新幹線に乗り、一路函館を目指した。

青森から1人加わり、函館駅で一杯やって湯の川温泉へと向かった。

旅館の部屋に入ると、毛むくじゃらの髭をたくわえた、青森の田舎の方で開業しているT君が出迎えてくれた。

よくよく5年ぶりで会った顔を見ると、なんと歯医者のくせに右の側切歯がなく(右の真ん中から2番目の歯)それでにっこりと笑うものだから、昔と変わらず何ともかわいらしい顔にいっそう愛嬌が加わり笑ってしまう。

「T君、その顔で患者さんを治療しているのか」

「うんだ」相変わらずの津軽弁だ。

抜けてから何年になるのかしれないが、さぞかし患者には笑われているだろう。さすが超個性のT君だ。

H大の口腔外科で修業し、カナダに留学して帰国してからもう20年になるのだという。

ふと学生時代を思い出した。

彼は兄弟が何人かいて、父親は今話題の獣医師であった。

そういった事もあって、笑ってしまう位よく似た顔をした獣医学部に通う妹が兄を訪ねて遊びに来ていた。

2人で津軽弁でしゃべっているが、何をしゃべっているのか半分位しか理解できなかったが、「T君、妹はなかなかめんこいのー」と津軽弁を真似して言うと、何を思ったかこちらの方を見てにっこり笑い「ちけんだぁー」と言ってきた。

推察すると、私が彼の妹に興味を持ったと誤解したようで「危険だ」と言っているようであったが、何回聞いても「ちけんだぁー」としか聞き取れない。

「ちけんだぁ…」は、それから我々仲間で大いに流行した。

テストで再試をくらうと「チケンだぁ…」

留年しそうだと「チケンだぁ…」という風に大いに多用させてもらった。もちろん彼の前でも言うと、「俺の言葉はそういう風に聞こえるか…」とぶつぶつ言っていた。

寮には全国から学生が集まっていて、東北弁、北海道弁、関西弁、九州弁が行きかっていた。

都会育ちの私にとっては、それは刺激的で東北6県の気質の違いも2年程で何となく解ってきた。

学部も、医学部・歯学部・工学部・理学部・文学部・水産学部と多岐にわたり、自然と各学部のやっている事を聞くと大いに勉強になった。

まともな勉強はしなかったし、授業もほとんど出なかったが、多種多様な人間が混ざり合い、多くの友人に恵まれ触発された。

函館の2日目、日頃ふざけた事ばかりやっている水産学部の先輩が、職場の水産研究施設を案内してくれ、はじめて見る先輩の真面目な別の顔を見て「かっこいいな」と思った。

いろいろな人間が交じり合って刺激を受けた2年間。改めて45年たった今、仲間と再びめぐり会って幸せで充実した寮生活だったと実感した。