げんこつとせきばらい

インプラントの最大大手のストローマン社が、招待してくれることとなり、ストローマンインプラントに関心のある秦野医院のS先生、U先生、16号医院のI先生と、週末の土日、東京駅のフォーラムへセミナーに出かけた。

会場の入り口で、S先生とばったり遭遇し、4つに分かれている会場の1つで隣り合わせの席に並んで講義を聞くこととなった。

講演が始まって、ふと隣に座っているS先生を見ると、こっくりこっくりと居眠りをしている。

昔だったら、足を蹴とばすかゲンコツで小突くかして起こさせていたが、さすがに私は年をとったせいかそんな元気がなく、咳払いをするにとどめた。

咳払いをすると、S先生は一瞬目覚めるが再び深い眠りにつき、とうとう午前中の2時間寝っぱなしに寝ていた。

さすがに講演が終了する時に、

「君は一体何をしに来とるのカネー」とか「もうセミナーには行かせない」とか散々毒づいた。

土曜日の講演が終了となり、新橋の老舗の焼き鳥屋で反省会(単なる飲み会)をやっていると、昼間あれだけこっくりこっくりとやっていたS先生がやたらと元気になり、その後2次会まで繰り出した話を聞き、呆れかつ驚いた。

若さとはこういうものなのかもしれない。

 

今から20年程前、当時は矯正に凝っていて、東京医歯大卒の秀才、U先生と京都までセミナーに出かけた事があった。

U先生は、元気だったのは行きの新幹線だけで、セミナーが始まると居眠りどころか爆睡をするに至った。

当時は私はまだ若く、非常に立腹して起こすのだが、U先生はちょっとポイントだけ聞くとまた深い眠りに入る。

昼休みも、昼食後「ちょっとすみません」と言いながら、椅子をいくつか並べて、そこで1時間ほど爆睡し、午後のセミナーも9割方眠っている状態で、夕食時も非常に眠そうで、

「U先生、早く部屋に戻って寝たのがいいんじゃないの」と言ったら、「はい、そうします」と言いながら、再び翌日のセミナーも爆睡状態、帰りの新幹線もほぼ同じ状態で、一体この人は何時間眠るのか、傾眠病なのかと疑う程であった。

U先生は中高の同級生に聞くと、桐蔭学園で中学の時は1番だったそうで、いわゆるガリ勉タイプではなく、天才型だったと思われる。

その京都の矯正のセミナーで教えられた事を半年後位に、

「U先生どうだったっけ」と聞くと、6か月後なのに、そしてあれだけ寝てばかりいた割にはしっかりエッセンスは捉えており、明確に答えるので、ただものではないと思っていた。

 

U先生と同じころに勤めていたM先生も国立大卒のユニークな存在であった。

先日、山北医院で治療していると、今は独立開業したM先生のところでインプラント治療をし終えた患者さんがいて、仮歯がとれたと言って現れた。

もう治療費は支払い終えたとのことで、仮歯をつけ終わり、M先生のところに行くように指示すると、その患者さんは、

「それが、行きたくないんだよなぁ」と言う。

こちらが不思議に思い、

「インプラントは非常にうまくいっていますよ。行きずらいのなら、M先生は昔うちで働いていたので、その旨電話で連絡しておきますよ」と言っても無言のままでいる。

すると衛生士のYさんが、そっと耳打ちをしてくれた。

「先生、M先生あの患者さんの事を女性と間違えて、立腹されているようです」

そういえば、その人は少し長髪で、間違えると言えば間違えるかもしれないが、さすがM先生と思った。

U先生もM先生もユニークで、ある面勤務されている時は苦労したが、2人とも神奈川県で開業し、十分すぎる位開業医として成功していた。

勤務医の時、結構手を焼いて大丈夫かなと思った人材が案外成功して、ノーマークのDr.が失敗している。おもしろいものだと思いつつ、その理由を考えると、ある共通項があるのに気が付いた。

要するにフルマークの先生の場合、開業時に“心優しい”私が心配になり、開業先を実質的に私が決める事により成功していて、ノーマークの場合はあいつはほっといてもどこでも成功するという私自身の油断と本人の思い上がりゆえ失敗するケースが多いのである、という結論に達した。

先日も東京都で2ヶ月程前に開業したK先生から、いろいろ相談があり、開業そうそう盛況しすぎて大変だという“うれしい悲鳴”を訴えていた。

彼もまた典型的にフルマークのドクターであった。

S先生、U先生、M先生、K先生、自分が必死になって伸ばそうとしているDr.が一人前いや一人前以上に活躍しているのが私の楽しみであり、誇りである。

最近、歯科医師会の若手と飲む機会があり、

「あの有名なM先生は、先生のところで働いていたんですよね」との会話があった。

「そんなに有名なのか」と聞くと、かなり繁盛しているので有名らしい。

今はもうあまり逢う機会はなくなってしまったが、

「男と女と間違えるなよ」と思いつつ懐かしく、そしてうれしい気持ちになった。