プールにて

今年1年はせっせとプールに通った。
1年で毎月20回として、250回ぐらいは行く計算になるだろうか。
肝心のお腹がへこまないのにまいっていて、ライザップが小田原に来いと願っている。
それだけプールに行っていると、よく出会う人がでてくる。
PM7:30頃に来る20代後半か30代前半の美人でスタイルが良いお嬢さんとはよく会った。
こちらは泳いだり歩いたりして、向こうはもくもくとウォーキングをしている。
スタイルも良く、若いのに、本当によく来るなと、毎回思っていた。
向こうはちらちらとこちらを見て、やはりよく会うなというぐらいのことは思っていたかもしれないが、会話を交わすことは全くなかった。
そんな状態がずっと続いていて、ある時彼女がぷっつりと来なくなった。
ずうっと来ていた人が、ぷつんと来なくなって、最初は気にしていなかったが、だんだんと気になってきた。
彼女はきっと、この近くにある会社のOLをしていて、お見合いをして(古いか!!)結ばれ、結婚をしてどこか遠い街に行ってしまったのに違いない。
あの美貌、そして見事なスタイルから、きっとそのような類ではないかと思った。
彼女が来なくなって半年が過ぎた。
もう彼女の存在などすっかり忘れた時に、突然彼女は現れた。
しかも結婚相手と思われる男性と。
もちろん、私の存在など彼女が気付くすべもない。
しかも驚いた事に、ウォーキング専門の彼女がオリンピックスイマーもどきの泳ぎを披露して彼氏とキャッキャッと言いながら泳いでいる。
「泳げるんだー。でも良かったな」
その日を境に彼女は再び姿を現さなくなった。
私の推理は当たっていた。おそらく結婚し、たまに実家に帰ってきた時、彼氏とプールに来たのだろう。
ほっとしたような、寂しいような気持がした。

もう1人、今度はめったに会わないが、会うのが楽しみなおじいちゃんがいる。
彼は杖をつきながら、時折プールに現れる。
彼に会えるのは大体昼の2時頃で、休みの日にしかお会いできない。
とにかく、家族に連れてきてもらうのだろうけど、1分に10歩ぐらいしか歩けないが、補助者はいない。
従って、車から降りて、普通1分で受付まで来られるのに、彼は10分はかかる。
それから着替えを更衣室でやるが、今は見なくなったふんどしなぞをしているものだから、非常に目立ってしまう。
それから10分ほどして、プールに来るが、思わず女性たち(その時間帯にはいっぱいいる)が手伝って、プールに入ることとなる。
プールに入ると、ウォーキング専門のレーンでウォーキングをするが、彼の特徴は、本当にうれしそうにしている事で、おそらく何かの大病をされた方と思われるが、
全身で「俺はカムバックしたんだ」という喜びにあふれている。
ウォーキングを一周すると、驚いた事に彼はシャワーを浴びに1回プールをあがる。
そして、スウィム用のレーンに入り、プールの端にしっかりと浸かって我々が泳ぐのを見ている。
時々、顔を合わすが、本当にうれしそうな顔をしていて、こっちまでうれしくなってくる。
非常に徳のあるお顔をされていて、慈愛にあふれる表情をされている。
そして、私が泳ぐのを相変わらずうれしそうに眺めている。

一言多い私が、おじいちゃん、ずっとプールにつかっているなら、温泉に行った方がいいんじゃないの、と言ってやりたくなるが、我慢している。
彼はウォーキング専門で、眼に水が入る事はないのに、見栄をはってゴーグルをつけているところが、かわいらしい。
そこで、私の想像だが、あの慈愛にあふれた眼は、教育者ではないかと思われる。
小学校の先生をやっていて、その後大病をして、カムバックした事で、全身で喜びをあらわしているのではないかと思っている。
こんなお年寄りでも頑張っているのだと、こちらは身の引き締まる思いがする。
今度ばっかりは、勇気を出して、おじいちゃんと話をしてみようと思っている。