「ホントウカヨ」のお話

歌舞伎界では勘三郎や三津五郎そして柔道界では斉藤仁など、50代で逝去するケースが相次いでいる。
さぞかし、やり残した事が多く、悔しかったと思うし、それぞれの世界で大変な損失であると思う。
大学の同級生でも50代で逝くものも多く、感慨深いが、中でもT君はその強烈な個性でしばし、思い出にふける事も多く、「イチジマ~」とT県なまりでよく私の夢に現れる事が多い。
30代の頃、私はT県のゴルフ場が気に入り、T君としばしばゴルフをやる事が多かった。
T君は私に逢うと「ホントかよ・・・」と思うような事を次から次へと告白する事が多かった。
その一例を挙げると、
(1)患者で歯の型を取る時に衛生士の指をなめるオジサンがいて、
衛生士が気持ち悪がり(その頃はあまりグローブをやっていなかった)「やめて下さい」と言ってもやめなかった。
そこで、T君が型を取るようになったら、ぷっつりと来なくなった。(笑い)
(2)T君の友人が、地元のソープランドに行ったら、ソープ嬢が自分の医院の衛生士で「キャー」と言ってそれきり職場には来なくなった。
T君は馬鹿が付くほどの正直者で、それをもって数々の失敗をした。
そして、彼は大変な女性愛好家(世の中ではこういう人をスケベという)であった。
私は直感的に、このハプニングは自分の事を言ってると思い、追求したら、声がうわずっていたので、自分の事だろうと思う。さぞかし、びっくりした事だろう。
(3)彼にはいわゆる特定の女性(世で言う愛人)が3人おり、昼休みにとっかえひっかえそこに通っていた。
ゆえに、奥さんには、歯科医師会の理事になると、昼に会館に集まると思わせていた。
(4)ある日、その特定の人のところにいると、車をぶつける音がして、マンション窓から見てみると、T君の妻がT君の車に、車ごと体当たりしているとの事。どうやら車に探知機をつけられたらしい。
(5)学生時代、アルバイトで札幌のストリップ劇場の呼び込みをしていると(目出帽で顔を隠していた)、彼を留年させた歯学部の教授が「いい子はおるか」と言って話しかけてきて、声色を使って
「えー、おりますよ」と言った。(教授も教授、教え子も教え子だ)などなど枚挙にいとまがない。
とにかく、豪快な男で毎月、彼と話をするのが楽しみだった。
なぜ彼の話に「ホントウか」が多かったかと言うと、彼の人並み外れた行動力と友人関係の多さゆえと思う。
私の周辺では彼のようなスケールの大きい、豪傑が少なくなった。
彼も癌で逝ってしまったが、さぞかし心残りは多かったと思う。
そしてその彼の霊魂の執念が、私の夢の中によく登場してくる理由だと思っている。