さようなら森光子さん

国民的俳優の森光子さんが亡くなった。
私が小学生のころ、TVで「放浪記」を演ずる彼女を見て、どんどんひきこまれて、その演技力に感嘆してから、ファンというより、心の中の「母親」という存在で、彼女に去られてみると、悲しくてそしてさみしい。
私の母がまだ若いころ、よく森光子に似ていると言われた。
母の友人の娘さんに「おばちゃん、森光子によく似ているね」
と言われると、母は「ありがとう。うれしいわ」と言って、相好を崩して喜んでいたのを覚えている。
確かに、彼女の死後、放映された特番を見ると、容姿ばかりか性格まで似ている様な感じがした。彼女は嵐寛寿郎のいとこで、京都出身だという事を知っていたが、東京の下町的お母さんという雰囲気を持っていて、そこら辺が、浅草育ちの母と近似していたのかもしれない。
母は森光子の事は、詳しく「ずいぶんと苦労して、遅咲きでスターに登りつめ、その努力が演技によく表現されている」と評価していた。
「放浪記」の主人公は、彼女に一番近い役柄だったと思う。日本の女性としての「美しさ」「はかなさ」「おかしさ」「おろかさ」「切なさ」そして「ずぶとさ」など、一見矛盾している人間の感情表現をこともなげに力まず表現できる数少ない名優だったと思う。
我が母が死んだあと、TVで活躍する森光子の得意の「でんぐり返し」などを見て、ますます若く、いつしか母親のように見えるようになり「彼女は死なない」という不滅神話のような錯覚を持っていた。
彼女の死後、企画された数々の特番を見ても、つくづく彼女がいかに皆に愛されていたかを感ずる。
また1人、日本の誇るべき「昭和」を感じさせる存在が去って行った。
改めて、森光子さんのご冥福をお祈りしたいと思います。