招かざるべき客

手広に行ってみると、受付のおなじみSさんが患者に一生懸命対応しているがいつもと少しばかり違い、複雑な笑いをしていた。

「いったいどうしたんだ」と言うと、

「最初はまともな電話だと思ったのですが……」

「それでどうした!!」

「トイレはどこにあるんだと聞くんです」

「それで!!」

「あんたと一緒に行きたいですって」と独特のまんまるい目を殊更丸くして笑いながら言っていた。

時折というか、場所によってしばしばこういう変質者的な電話がかかってくる。

もう時効になるが、今から10年以上前四之宮医院に頻繁にこの手の電話がかかってきた。

なかでも1ヶ月近くも連日かかってきたのは、「今日は何色?」電話である。

最初のうちは、いろいろな話をしていて最後に言ってきたらしいが、大胆にもだんだんといきなりそういう会話をしてくるようになったらしい。

ベテラン勢は慣れていて適当にあしらうが、若い子は相当に気持ち悪がっていた。

「警察に届けますよと言え」と指導したが、全く効果が得られない状態だった。

こちらは万が一のために帰宅を数人一緒に帰らせるなど対策に追われていた。

ところが、1ヶ月経っても一向に終わらない。

電話番号はもちろん非通知だった。

そんな中で最後の手段を思いついた。

今度「何色君」から電話が入ったら「俺にすかさず回せ」と指示をした。

あくる日例のごとくまた「何色君」から電話があり、私が出てタイミングよく「今日は何色なの」が始まった。

私は作戦どおり「あーら、今日はピンクと黄色の縞模様よ。見たいのー!?」とかましてやった。

「うえ…」とかいううめき声とともに電話は切れた。

その日を境にぷっつりと「何色君」からの電話はなくなった。

皆口々に「理事長すごい。なんて言って注意したんですか」と言っていたが、こちらからは恥ずかしくて言えなかった。

それでもものの見事に作戦は成功した。

最近綾瀬医院でも同じような事がおこり、事務方が頭を抱えていた。

「俺に任せろ」と言いたいが、その事だけのために毎日行くことも出来ず、ほぼ1日おきに行っている箱根の受付のKさんに、「その手の電話はないか」と聞いたところ、全くないとの事で安心するやら残念やらの気持ちであった。