天才といわれる人

世の中には天才というものが存在する。

当院でも今まで延べ200人はゆうに越すドクターが勤務していたが、その中でもごくごく少数に天才とよべるドクター達がいた。

そのうちの1人のK先生は、ひときわ群を抜いていた。

何しろ、教えなくても何でも最初から出来るのである。

中でも根管治療に関しては、初めて治療した時にすでに、私の実力を超えていた。

抜歯、歯牙形成どれをとっても教える前にほぼ完成されていた。

まさに驚異の男であった。

ただ、彼には人の言う事に耳を貸さないところがあった。

天才といわれる人間は往々にして、こういう側面を持っている。

 

今話題の清原も同じことが言えるのではないか。

彼は高校時代に甲子園でホームランを14本も打ち、充分プロで通用するバッターとなっていた。

おそらく、どのような監督、コーチよりも才能は上で、王、長嶋クラスでもなければ、むしろ清原の方が実力が上であったと思われる。

何もかもできてしまうと、世の中を馬鹿にしはじめて、上の人間のいう事を聞かなくなる。

彼等はやがてモンスターとなってしまう。

K先生もある時、歯槽膿漏の患者さんが来て、患者さんが希望するからと言って、あまり長持ちしそうにない歯にメタルボンド(せとの歯・保険外診療)を入れようとしているので、それはやめておけと注意をしたが、強行にせとの歯を入れ、その歯が1年とたたず揺れてきたので、患者は大いに怒りトラブルへと発展した。

そういう事を2度、3度しても平気な顔をしていた。

やがて1年経ち、お話があるとの事で話し合いをしてみると、びっくりするような事を言い始めた。

彼には1年上に同じ大学を出た先輩がおり、才能は彼より劣るが、堅実でコツコツと努力を積み重ねるW先生がいた。

「理事長、W先生は私より技量面がかなり劣ります。彼より私が来年も給料が低いのは我慢できません。技術力の差より、W先生の2倍の給料を下さい。」

最初は冗談で言っているのか、辞めたくてわざとめちゃくちゃを言っているのかと思ったが、別に辞める意志はないようだが、週1回通っている大学病院の非常勤の先生に高待遇でひっぱられているという話をしていた。

彼とは真剣に対峙して、先輩であるW先生の倍を出すという事は絶対に承服できない事、厚遇をしてくれるドクターがいれば、そこに行ってくれという事、もう少し物事に謙虚になれと諭したが、彼は聞き入れず、1年で退職という事になった。

その後、K先生は医局OBの所に就職しようとして、勇躍連絡をとったが、退職予定の先生が延期になったとかで断られ、無職になった様子だった。

困ったK先生は、顔の広い矯正担当のS先生に相談し、S先生からどうしたものか私に電話があった。

K先生は大学の後輩でもあり、何とかS先生の知っているところに就職させてくれと要望を出し、無職となり2,3ヶ月程ぶらぶらしてやっと千葉の片田舎の歯科医院に就職した。

しかし、そこでも色々トラブルを起こし、その先生はきっちりとしつけをするDr.だった様で、すったもんだの末故郷に帰った。

その間、千葉の先生に会う事があったが、ずいぶんと今までの事は反省している様子だったという。

10年が過ぎ、小田原駅でばったりとK先生に逢った。

開業して従来のセンスを活かし、自費のみの歯科医を目指すとの事で、「あの時は若くて、暴走してすみませんでした。先生、今度ゆっくりお話をさせてください」と言っていた。

 

 

清原をみると、スターゆえに連日追い掛け回されてかわいそうな感じがする。

離婚した妻、さらに2人の子息はどんなにかつらい思いをしているかと思う。

拘置所で泣いているとの事だが、さぞかし自分の人生を悔いているに違いない。

覚せい剤の再犯率は7割とも8割とも言われている。

再度やったら、もう清原の人生は終わりだろう。

私も野球小僧だったがゆえに提案したい。

まず、清原は入れ墨を落とす事だ。

入れ墨は外国と違い、まだ日本の風土に合わない。

それぐらいの金は清原ならなんとかなるだろうが、ここは敢えて、王、長嶋、野村ら名球会の面々に、わざと献金してもらう。(彼等のため、再犯はしずらくなるゆえ)

野球小僧が変に芸能人まがいの事をやるのが失敗のもと。

頭を丸坊主にして、廃部となった母校PL学園の復活に、監督として残りの人生半分をかけて取り組んだらどうだろうか。

そして自分の失敗を若いこれからの人達に、自分の真似をするなと説くのである。

PLがかつての栄光を取り戻して全国制覇をすれば、日本人は再び清原を英雄として、そして見事に立ち直った男として、改めて評価する事となると思う。

そして、子息にとっても偉大な父親としての復活になるだろう。

 

こと歯科医師にとってみれば、やはり天才型よりも挫折して人生の厳しさを味わい尽くした人間の方が、やがて患者さんから、そしてスタッフの皆から尊敬される人材となると常々思っている。

昔から、亀は必ずうさぎに勝利するのである。