家業

私の実家は染物屋を営んでいる。 とは言っても、今はタオルの名入れの仕事がほとんどで、母が一人で細々とやっている程度だ。 昔は職人が大勢いて、てぬぐいを染め、隣を流れる川で洗っていたらしいが、残念ながらその頃の面影は微塵もない。 子供の頃は、祖父母と母が作業している姿が楽しそうで、「私が跡を継ぐ」と言ったこともあったが、儲からないからやめなさい、と夢はあっさりと打ちくだかれた。 先日、用事があって帰省した時、実家はタオルの山に囲まれていた。 例年、年末のこの時期だけは忙しい。 年末年始の挨拶用に企業から注文が入るためだ。 結局、私の用事は半日で終わってしまったので、残りの時間はすべて仕事の手伝いをすることになった。 私がタオルをたたみ、折った箱に入れ、それを母が包装して掛け紙を掛ける。 それだけの単純作業なのだが、これがなかなか面白い。 いつの間にか夢中になり、あと少しあと少しと夜の10時過ぎまでやり続けた。 翌日も朝の9時から、午後3時頃まで作業をした。 「来てくれて助かったわ。ありがとう。」という母の言葉に、何とも言えない複雑な感情がわき上がった。 普段手伝えなくてごめんという申し訳ない気持ちと、後ろめたさだ。 今さら、私が跡を継ぐということはないだろう。 しかし、その選択が正しいのか。 後継者不足で廃業になる小売業や商店はたくさんある。うちも、その一つになるだけで、うちがなくなっても他の染物屋が代わりに仕事をする。社会は何も変わらない。 分かってはいるのだが…。 答えの出ないモヤモヤと、やるせない思いにかられつつ、静かに帰路についた。 湘南台事務局 K