電話に出なくなったA君へ -第109回歯科医師国家試験総括-

歯科医師国試の合否発表から早くも1ヵ月がたちましたね。
1点差で不合格とは・・・何とも言いようのないくらい残念な事でした。
 
あなたが再び電話に出なくなっているとの事で、私が電話したら出るかもと思いたち、かけてみましたが、やはり応答はありませんでしたね。
その後メールで返信が同級生のB君や、やはり去年1点差で涙をのみ今年見事雪辱を果たしたC君にあり、元気であなたが予備校に通い始めたとのことを聞きほっと一安心しました。
 
3月18日の合格発表の日も、いつもあなたをからかっている同級生のB君が午後2時発表の3時間前からどうにもこうにも落ち着きがなく、心臓の鼓動が止まらないとの電話がありました。
私も同感でした。
息子の時も娘の時もそんな事なかったのに、そういうふうにさせてしまうのはあなたの人徳なのかもしれないと思っています。
 
それほどあなたの事を思っているB君も、いざあなたと対面すると励まそうとして思い余ってあなたを結果的に傷つける様になってしまっているのを私と2人きりの時は反省しています。
 
国試に1点差で落ちた時はかなり落ち込みましたよね。
精神をコンセントレートするのには1ヵ月程の時間が必要だったと思います。
おそらく世界で一番アンラッキーな男だと思っていたのではないでしょうか。
しばらく自暴自棄になっているあなたを見ているのがつらかったです。
 
あなたは桶狭間の戦いを知っていますか?

戦力的に圧倒的に不利だった織田信長が今川義元を急襲して勝利を得るという歴史的にも有名な戦いなのですが、その時今川軍の一員として徳川家康は戦っていて、今川義元が戦死した時徳川家の菩提寺の大樹寺で自分も死のうと決意しますが、住職の登誉上人に諫められて自決を思いとどまりました。上人のその時の言葉が「厭離穢土(おんりえど)、欣求浄土(ごんぐじょうど)」で(戦国の世は個人の欲望渦巻く汚れた世界だから、その穢(きたな)い世界を離れて永遠の浄土をひたすら願えば必ず仏の加護を得る)それを訴え、家康が自決するのを止めたのです。
 
その後家康はこの言葉を理想として自分の信念として自軍の旗印に取り入れ、戦い続けて天下統一へと進んで行きました。
登誉上人がいなければ家康はその時死んでしまって江戸時代はなかった事になり、大きく日本の歴史も変化したと思います。
 
らいおん歯科のスタッフはあなたがアルバイトで助手として働いていた時より皆慕っていて、あなたがドクターとして戻ってくるのを切望しています。
あなたの本来持っているやさしさ、思いやり、他人に対する気配りはおそらく天性のもので、国家試験に合格さえすればきっと一流のドクターになれる、いや、なるようにしてみせると私は思っています。
 
枝葉末節な知識を試し、資格試験とは名ばかりで約3,000人のうち1,000人をはたきおとす、恐らく日本の試験で一番残酷な試験を受けなければならず、そのためには才能あふれ、合格さえすれば日本の為にきっと貢献するであろう若者達の才能をうばいとるやり方に私は怒りさえ覚えるし、改善しなければ大変な事になると思っている関係者は年々増えています。
 
家康がその後、武田信玄にあぶなく死の一歩手前まで追いつめられたり、その後天下分け目の関ケ原の戦いにも決して楽勝ではなかったという経験をして何とか天下を統一していきました。人生とは案外そういうものの積み重ねかもしれません。
 
来年こそは是非国試に合格して家康のように省みて、今までの努力が無駄ではなかったと思ってもらいたいし、皆も熱望していると思います。
 
それではもう電話をかけることはないと思いますが、体に気をつけて、来年の吉報を心待ちにしております。最後についこの間終了となったNHKの朝ドラの「あさが来た」の白岡あさと新次郎の言葉をもって終えたいと思います。
 
-新次郎-
負けたことあらへん人生やなんて、面白いことなんかあらしまへん。
勝ってばかりいてたら人の心が わからへんようになります。

-あさ-
七転び八起き いいや、九転び十起き思て
負けしまへんで