喝(張本さんの思い出)

サンデーモーニングのスポーツコーナーを、張本が引退する事となった。
21年続いたそうである。
最後のサンデーモーニングの出演の時、かつて引退せよと張本に言われたカズやイチローが出演していた。
カズなどは早く引退しろと言われたのに、張本にひたすら感謝していた。

小学校5・6年生の頃通っていた小学校が武蔵小杉にあり、東映(現日本ハム)や巨人の2軍グランドがある事から、その当時の少年が皆そうだったように、熱狂的な野球ファンだった。
小学校5年生頃、塾をさぼって多摩川沿いを自転車で散歩していると、東映グラウンドでいかつい男が黙々とフリーバッティングをやっていた。
「張本だ!!」
チャンスだと思った。王と長嶋のサインは運よくもらっていたので、張本のサインも是非ともほしいと思い、ペンとノートを握りしめてチャンスをうかがった。
チャンスはすぐに訪れ、張本が一区切りつけて私の目の前にある水飲み場に、ノッシノッシと向かってきた。
私はここぞとばかりに、
「張本さん、サイン下さい。」とできるだけかわいらしい声を出して叫んだ。
張本は私の方をちらっと見て、含んでいる水を私の方に吐き出し、「ダァー」とかいう声を出し、再びバッターボックスへと立ち去った。

私はこの張本事件以来、当然の事ながら張本を嫌いになった。
張本が巨人のメンバーになった時、張本の伝記を読んだ。
在日で差別にあった話とか、父親が早くに亡くなり、母親に何とか孝行をしたいという思いなどが綴られていて、張本の評価が変わった。
そして張本の「ダァー」事件の頃、張本は必死でトレーニングをしていた事が判明した。
あの時の「ダァー」は、喝の初期段階で、「カンベンしてよ、ボクチャン」という意味だと思っている。
なお、張本の座右の銘は、「あれほどの努力を人は運という」だ。
私も使わせてもらっている。