和久本先生を偲ぶ

5月17日は故和久本教授の命日で、全国から門下生が集まる。
和久本先生は実に面倒見の良い方で、何人もの医局員が和久本先生の紹介でゴールインした。
幹事のI先生が「そういえば、Kも教授の紹介で結婚したんだよな。おい市島、お前はそういう話はあったのか」と言うので、とっておきの笑い話を披露した。
40年程前のある日、教授が教授室に来いとの事で参上すると、いつもとは違う厳粛な顔をされていた。
「市島君、今日は君にとっておきの話を持ってきたよ」
聞いてみると縁談話でお相手は23歳の一般女性で、父上は歯科医で都内に分院を持ち、山口百恵と一緒のマンションに住んでいて、やがては1ヶ所を譲ってもいいというお話であった。話が進むと何やら「婿になる」とか「婿さんに入る」とかいう話が続き、馬鹿な私は、
「教授、それひょっとしてむこ養子ですか。私これでも一人息子なので養子は絶対に駄目です」と言って教授の顔を見ると、常日頃から笑顔を絶やさない温厚な人柄の方が何やら真っ赤な顔をして怒っている。次の瞬間、「市島君、さっきから養子養子って言うけれど、僕だって養子だよ」
“しまった、確かにそうだった”
教授の怒る顔を見ながら、私はほうほうの体で「すみません、失礼します」と言って立ち去った。
もうひと昔も前の話である。
頼まれたら断れない江戸っ子気質で、そして皆の為に誠意のある人柄の教授に、そして私のような者の為に生涯目をかけて下さった教授に改めて至上の愛を感じ、述懐した。