体罰(PART2)

小田原で学校歯科医をやっていた10年程前の話である。
そのころ、小田原では中学校が荒れ狂っていて、S中学では、学校医が生徒に殴られて辞めたとかの話で、学校歯科医をやっていた先生が、辞めるとか辞めないとかの話が出ていた。
次は私の担当しているI中学校で、不良が相当数いるとかいう噂で、私も身構えていた。
歯科検診の日、やはり、10数名の不良共がどやどやと、検診をしている保健室に現れた。
どれを見ても、これが中学生かと思うような風体の連中ばかりであった。そのうちリーダーと思われる、茶髪にピアスの生徒が、驚いたことに、挑発するようにタバコをプカプカと保健室内で喫いはじめた。
そして、先生に体当たりをしたり、こちらをちらちらと見て、何とか私を威嚇しようとするような行動に出ていた。
先生の方はというと、ホールドアップしたような恰好をして、携帯電話で、おそらく警察と思われるところに電話をしようとしている。
そのうち、検診をしている私の横においてある敷居をぎしぎしと揺さぶりながら、しきりに威嚇を始めてきた。
実は私は、心中ひそかに決めていた事があった。
このような暴漢が私に危害を及ぼす事があれば、思い切りパンチをふるって、その後、教育委員会に辞表をたたきつけてやろう、と思っていた。それは、正当防衛に値すると思っていた。
きっと新聞の地方版ぐらいに載るかもしれない。
“歯科医、不良中学生に制裁”とか
“暴力歯科医、中学生を殴る”とか…
そうなっても構わない。それぐらい、彼らのやっていることは、実に卑劣な事だと思っていた。
1人の勇気のある先生が、
「オマエラ、何やっているんだ」と大声を出し、彼等はちりぢりになり、わめきながら去って行った。
検診が終わり、校長室でいつものように懇談をすることになった。
校長に、今日起きたことの報告をし、
「あんな輩は、1発2発ぶん殴らないと、目が覚めないですよ。
何であんなにやりたい放題させるのですか」
と言うと、校長は、今までおきた過去の事例をあげ
「先生が学生のころとは時代が違いますよ。今そんな事をやったら
親が大変ですよ。すぐにすっ飛んできて、難しい事になるんです」
PART1 で披露した、うちの親父のように
「どんどん殴ってでも、ひっぱたいてでもかまいません。
うちのバカ息子を鍛えて下さい」
というようにはいかない様子…
30何発もたたくのは、本当に“いじめ”とか“暴行”になるのだろう。しかし、生意気盛りで何の分別のない若造に、やさしく言ってすめば苦労はいらない。
時には“愛のムチ”をふるって、目を覚まさせるのも策ではないか。
TT先生に一発二発と“愛のムチ”をくらって、その後大きく人生転換をしていった私はそう思うのである。