ハイシャとショウシャ

卒後5年目になるS先生が11月に結婚するとかで、フィアンセを帯同して式のスピーチの依頼に現れた。

S先生は私の大学の後輩で、スタッフ期待の若手のホープである。

お相手は才色兼備のいかにも頭が回転しそうな女性で、4大商社の1つ、I商事に勤務しているとの事であった。

結婚式の時は、「新郎は一生新婦に頭が上がらないと思います。なぜならハイシャとショウシャで、勝負は決まっていますから…」と言ってスピーチを決めてやるぞと言って笑いを取っていると、S先生がもじもじとし始めて、

「理事長、ところで式が終わったらアメリカに行こうと思って」との事。

「ああ、新婚旅行ね。1週間くらいはいいんじゃないかな。でも年末で忙しそうだな」と問いかけると、

「アノー、実は3年です」

「ナヌーーーー!!」

「嫁さんがアメリカのA州に行き、僕もついて行く事にしました」

 

実は私の父方の祖母はロサンゼルスに40年も住んでいて、私が中2の時に帰京して以来、常にアメリカの銃世界の怖さを語っていて、アメリカ本土に私が行った時は、びくびくしながら行動していた事もあり、アメリカというと私にとっては恐怖の対象であった。

「アメリカの高校生で一番人気の職業は歯科医なんだ。アメリカには国立はなく、州立と私立しかない。卒業するには日本以上に年数と経費がかかる。しかも最後の3年なり2年はほとんど銀行からの借金で本人が支払うケースが多い。日本からぽっと行って、すぐに診療をさせてくれる程甘くない。それにいつ銃の乱射にあうか解らない」

「いったい3年間何をやるつもりなんだ。今後1、2年が歯医者として一番肝心な時期にさしかかるのだぞ」

婚約者の方にも八つ当たりして、

「おたくの会社は新婚で旦那がこんな状態なのも配慮しないのか」と言うと、にっこり微笑んでいる。

この人、只者ではない。

ひとまず、その場ではお引き取り願って、後日再び相談という事になった。

2人が帰った後、それにしても婚約者のあのゆとりと不敵な笑いは何だろう。

商社という事で早慶か一橋卒業あたりの有能レディかもと思った。

後日、S先生と再び話し合いになり、普段学歴なぞ全く気にしない私だが、「彼女は一橋か早慶か出ているのか。

すごいオーラを持っているな」と聞くと、S先生は観念したかのように「東大です」と答えた。

「ナヌーーーーー!!」

(今回はナヌーが多い)

「東大の法学部かそれとも経済か」と聞くと、工学部ですと答え、

「東大の工学部からI商事かよ」

それがあの不敵な笑いなのか。

それからも何回かS先生と交渉の場を持ったが、どうやらアメリカ行きにルンルンで全くこちらの話に耳を貸そうとしない。

 

 

箱根の息の合った事務コンビが何やら笑いながら、独特の身振り手振りで「スマイル、スマイル」とかやっている。

「何やってるの…」と言うと、

「知らないんですか。今をときめくマック赤坂ですよ。理事長も都知事選の立候補の所信演説聞いて下さい」

週刊誌を読むと、ビートたけしが「マック赤坂の演説はどんな漫才よりもおもしろく、笑うまいと思っても笑ってしまう」との事で、家に帰りチャンネルを回すとマック赤坂が出ていて、

「スマイル党のマック赤坂です。スマイル、スマイル」とかやっていて、いかにも面白く腹をかかえて笑っていると、マック赤坂、

京大の農学部と出て(エーー)、I商事に25年勤務(三度目のナヌー!)とか、さすがI商事。

マック赤坂もそうなんだ。

I商事は残業をやめさせて朝7時に出勤させ、ただで朝食をふるまい、それが功を奏して物産や商事を抜いてトップに躍り出たとの事。

こちらもあの手この手で慰留しているが、奥様はもうアメリカに行っていて、頑として手ごわい。

こうなれば、やけくそで、結婚式の時に御社の先輩の真似をしますとか言って「スマイル、スマイル」とぶちかましてやろうかと思っている。

マック赤坂

写真:マック赤坂氏のツイッターより